あの子

 彼女はよく、主張のない笑いかたをする。

 笑いかた、だけではない。怒りかた、泣きかた、喜びかた。不思議と、感情に彼女自身を感じないのだ。感情そのものが生きていて、彼女が媒体となり、ただ自らの肉体や表情を貸しているだけ。いつだって自らは空っぽなのに、いつだって溢れている。表現の抑揚や強弱の乏しさ、とも違う。鮮度の極まった感情たちが、規則正しく在るべきときに在る。彼女の不在こそが、主張のなさ、つまり、純粋さを感じさせるのだろうか。

 人を惹きつける力もそうだ。彼女特有のものである。肉体から香るというよりも、魂から香るような、清潔と野蛮が入り混じった、混沌とした色気だった。

 決まって彼女は、分からなく、危なく、そして、美しかった。




詩以上、短編小説未満。前後のない、切り取られた物語を創作しています。

前後の空白、登場人物たちの関係性、情景、状況、あらゆる背景は、読み手の想像に委ねます。